里親制度ー犬と人間の社会復帰
島根県の社会復帰促進センター(刑務所)から「刑務所育ち」の盲導犬第一号が誕生したというニュースが報道されたのが、2013年の事です。これは法務省のPFI事業に日本盲導犬協会、大林組が協力し2009年からスタートした「島根あさひ盲導犬パピープロジェクト」によるものです。盲導犬育成などの社会貢献活動を行うことで受刑者の達成感や責任感を涵養し、社会復帰につなげることを目的としています。受刑者は生後2ヵ月の子犬を1歳まで預かり、生活を共にしながら食事、しつけ、運動などの世話をします。この時期に愛情を注ぎ、人間との信頼関係、生活リズムを身に付けさせることが盲導犬育成の成否につながります。アメリカでは飼い主に捨てられた犬達が、受刑者によって家庭犬としての訓練を受け、新しい家族の元へ送り出すプログラムが日本より前から始まっています。
1.アメリカでの受刑者達による犬の訓練プログラム
アメリカでは受刑者のためのプログラムとして犬の訓練が取り入れられたのは、1981年ワシントン州の女性刑務所が最初でした。当初は島根と同様、盲導犬や警察犬候補の子犬達を受刑者がトレーナーと共同で訓練して、立派な職業犬に育て上げるというプログラムでした。一般的なトレーナーと違って、受刑者達は犬と24時間、常に一緒にいることが出来ます。その分、訓練も早く修了することができ、受刑者達は責任感や達成感、そしてドッグトレーニングのスキルを身につけることができるというこのプログラムは、すぐに他州からも取り入れたいという声が多数届き、現在アメリカのほとんどの州で、受刑者による犬の訓練プログラムが実施されています。
2.保護犬を受刑者が訓練し、新しい飼い主を探すプログラム
地元のアニマルシェルターから連れて来られた犬達で、預かり期間を過ぎても引き取り手がなく殺処分にするしかないという犬達が、受刑者によって家庭犬としての訓練を受けて、新しい家族の元へと送り出されています。一般のシェルターでは、問題のある犬一頭一頭にじっくり向き合って訓練するだけの時間も人手もないのが現状です。時間さえかければ良い家庭犬になる可能性のある犬達が、受刑者によってセカンドチャンスを与えられるというわけです。犬達は平均12週間の訓練期間を過ごし、基本的なコマンドやトイレの躾、人に飛びつかない事、人間や犬同士の社会化を身につけるので、新しい家族を見つける事はずっと簡単になります。
3.受刑者の再犯率低下にもつながる
犬にとって素晴らしいだけでなく、受刑者が犬と暮らすようになってから、刑務所内での暴力沙汰が著しく減少したことも報告されています。全ての受刑者が犬の訓練プログラムに参加できるわけではないのですが、参加者の再犯率はほぼゼロに近く、社会復帰も容易だと言います。これは社会全体にとってもありがたいことですね。
アリゾナ州の女性刑務所ではアニマルシェルターから来た犬達の訓練に加えて、犬のシャンプーやトリミングを行うグルーマーの資格をとる支援をしている所もあります。シェルターの犬達は綺麗にしてもらって基本的な訓練も終えて、新しい家族の元へ送り出されます。
4.NPO法人主体
これら刑務所の受刑者とアニマルシェルターの犬達を結びつける活動は、民間のNPO団体が間に入って仲介や指導を行っており、ほとんどの場合、税金が使われることはありません。
5.日本でも是非導入してほしいこの制度
この制度のメリットとして前述していますが、
・犬と受刑者がセカンドチャンスを手に入れる最も効率的な制度である事
・民間の愛護団体では手の回らない家庭犬としての躾を重点的に行える事
・よく躾けられた犬なので、新しい飼い主も安心できる事
等があげられると思います。
是非日本でも一般的に普及して欲しいプログラムなのですが、勿論色々な法整備や諸問題(刑務所施設の改築も必要)もあると思われます。国・地方自治体・NPO団体・獣医師会が一丸となって是非是非実現していただきたいし、その動きの一助となれれば嬉しいと思います。